詩小説『雨の日の猫は眠りたい』その1。/たま
やかな罪を重ねて、次郎さんが流された
のだとしたら、次郎さんたちに一歩遅れて定年を迎
えたこのわたしもおなじ罪を犯したはずだ。
「あした帰るの? たぶん、飛行機は飛ばないよ」
明日も西の風が吹くという。
次郎さんはもうすっかり島のひとだ。わたしという
ささやかな流罪人は、たった三日、流されただけで
罪を補おうとしているのだろうか。
火の山峠の展望台を過ぎて林道を下る。人恋しげな
カーブ・ミラーの前に立って、ふたりの記念写真は
カーブ・ミラーの瞳の中に。
「次郎さん、ありがとう」あした帰るわたしの、残
された日々と希望を、この島の峠で拾い集めること
ができたかもしれない。そんな気がした。
あくる日、三池港の桟橋に向うそのちいさな車は、
物静かな牛のように坂道を下るのだった。
その2へつづく。
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