詩小説『雨の日の猫は眠りたい』その1。/たま
 
をとって、シルバー人材センターには、もう十数年在籍しているというおばさんふたりのあとについてはたらくわたしは六九才。ちょっと耳のとおい初心な新入りだった。
「ぼちぼちでええから、辞めやんときてや。」
……はい。
 上田さんがそういうからわたしもそのつもりで、なんとかついて行けばなんとかなるような気がした。


  火の山峠

次郎さんの家は、火の山峠へとつづく坂道の途中に
あって、そのちいさな車は、登るときも下るときも
まるで不機嫌な家畜のように、激しく四肢を踏み鳴
らすのだった。
直径八キロ余りの島の真ん中に、レコード盤の穴の
ような火口があって、アップダウンの勾配と、
[次のページ]
戻る   Point(5)