火星人は見た「そんな雰囲気」の嵐を/ただのみきや
いる
朝顔と古井戸の家
朝顔が化けた
旦那はおひたしを所望した
古い土鍋を肩に担ぐようにして
女房は踊る真鍮のシバ像のように
井戸の子をコオロギが慰めた
父のチコンキで蛇腹が踊っている
母も踊っているだろう
「お久しぶり」覗きこむ満面の月
なんでも咥える母
べっこう簪(かんざし) 彼岸花 生サンマ
しめ縄に沢庵 猫の前脚
閉め切った部屋の香の煙のよう
茄子も胡瓜も嫌いだから
いつか螢をまぶして書斎に浮かび
抽斗の中の小刀で
母の乳房を切り取って
歯にあてがえば声もふたたび
肉や皮膚も戻ろうか
{ルビ応
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