詩の日めくり 二〇一九年一月一日─三十一日/田中宏輔
 
もしれなかった。政治に関する話は、きわめて危険なものであった。男の姿が目のまえから消えてしばらくしてからも、わたしの身体は緊張してこわばっていた。肉体的な苦痛ほど恐ろしいものはない。わたしはそれを熟知していた。なぜなら、わたし自身が拷問者だからだ。わたしにわからない。どうして苦痛が待っているのに、男も女も、日本人も外国人も、反政府活動をするのか。第二次世界大戦で、日本がアメリカに勝ち、アメリカを日本の領土としてから、もう二十年以上もたつというのに、アメリカを日本から独立させようなどという馬鹿げた運動をするのか。国家反逆罪は死刑である。死刑囚から情報を引き出すために拷問するのが、わたしの仕事であった
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