演者たち――眼差しの接吻/ただのみきや
背丈ほどもあるまだかろうじて
色味を残した紫陽花の前――立ち止まり
足場を確かめるように何度も
濡れた落葉を踏みしめている
去り往く季節の残響
明け方の濡れた土の匂いを
霧のような肌に包むまだ荒らされていない朝
カメラを構える女
手は二匹の華奢な蜘蛛
レンズの角度は紫陽花を越えてすぐ先の
低地に広がる公園のすっかり葉を落とした樹々
あの黒々とした絡まりに鳥でも見ていたか
それともその向こう夢からまだ覚め切らない様子
白い無表情で立ち尽くし光物をチラつかせる
あのビルに何かを感じたか
だが女が見ているものをわたしが見ることはない
わたしが見ていたのはカメラを構えた女
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