野性よ、削ぎ落された地平を/ホロウ・シカエルボク
ならないだろう
と、お前は考えた
川に掛けられた大橋の灯りは消えていて
月だけが世界を照らしていた
それは優しい歌のような明るさだった
眠ることを諦めてソファーに座り直し
お前は胸の中にあるものが悲しみでも恐怖でも
諦めでも狂気でもなく
安堵であることにようやく気が付いた
夜泣きに眠りを妨げられることもなく
夜中に戻って来る男のために
夕食の用意をする必要もなく
ご近所の付き合いなどに時間を取られることもない
この生活を守り続けることにはたしてどれほどの意味があるのかと
風呂上がりに髪をまとめながら考えることも要らなくなった
お前は外に出て河原に腰を下ろし
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