野性よ、削ぎ落された地平を/ホロウ・シカエルボク
 
の時初めて思い当たった

岸にあたる水の流れが終始聞こえるほどに
ほかにどんな音もしない夜だった
路面電車や
声を張り上げる酔っ払いたちや
道端で痴話喧嘩を始める恋人たち
アクセルを吹かすバイク
辺りが揺れるほどのボリュームで
カーステレオを鳴らす車
そいつらにマイクで呼びかけるパトカー
そんな一切の騒々しさは
すべて死体の下敷きになって沈黙していた

掃除したソファーに横になったものの
まるで眠ろうという気にはならなかった
初めて旦那のことを思い出した
携帯電話など使い物にならなかった
彼の仕事場は遠くにあるから
生きていても帰って来ることもなかなかままなら
[次のページ]
戻る   Point(3)