春提灯と咳緋鯉/田中修子
 
ひとのあしどりが遅くなっているという、日に日に空は澄み渡り冴え冴えとして散りゆく花びらに切れたって指触れたくって。
 乞う指さきの、届かないから伸ばす爪は洗剤のきらめきにひび割れて、ん、化けの皮剥がれとる。
 靴を履いている。濡れたような赤の布張りにつま先には、からの額縁にガラスビーズ彩ったような飾りがある美しい靴だ。そのかかとを、幾ら鳴らしたって願いは叶うことはない。ジュディ・ガーランドが薬で保ちながら虹の歌をうたったような偽りで満ちている吐息ですから--ね、いつのまにか、トレンチ・コートが似合うような年齢になっていたんだね。うん、おもちゃみたな緑色だけど。着たら跳ねたくなるみたいな。おてて
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