春提灯と咳緋鯉/田中修子
ててつなご。おてて、春・春・春のッ。
咳が流行りはじめてからすこしずつ澄んできた空、幾度も幾度も、薄青い空が菫色に染まり月が白くでて星は光った。
「なんだかこのごろ、故郷の空の色にすこうし、似てきたように思います。」
そう、北からきたひとが言っていたの、光化学スモッグ警報のなるこの町にピンで刺されてずうっとひらりと暮らしていたわ。人が咳におののくことで澄んでいくものがあるのだ。
「故郷では、秋になると山が燃え上がるようなんです、--都会は空が狭くて息苦しい、田舎ではこころの息がつまるのです、うまくいかないものですね。」
そう、ね。
いつだってここにいるよ
[次のページ]
戻る 編 削 Point(11)