未詩集1/道草次郎
体当たりするのが視える。中性子のまわりを廻転する傲岸な電子のようだ。黄色い人口灯の下、色褪せた歯磨き猫のシールを剥がす指先。右手の人差し指の爪の間にはいつも黒い汚れが溜まっている。そうするより他に手立ては無いと、どこかで子供ながらにさとっていたのだ。ステンレスの流しに立てかけられた青い洗面器。緑青のふいた裏戸の蝶番。軋む三枚目の床板。ドクダミと黴とが混ざった独特の臭気。塵埃の舞わない脳の滅菌箇所に八歳の記憶はこうして保管されているのだ。強風が吹きその身体がなぎ倒されたとしても、八歳のあの瞬間は揺るぎはしない。繰り返し再生され、繰り返し再生され、また繰り返し再生されるだけの話である。湾岸戦争は終息の
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