詩の日めくり 二〇一五年十二月一日─三十一日/田中宏輔
憶が違っていた。ペソアの『不安の書』350ページあたりだと思っていたのだが、444ページだった。
ほとんど同じものと思われるほどにそっくりに似たものが遠く離れたところにあることもあれば、まったく似ていないものがすぐそばにあることもある。目のそばには耳があるが、目と耳とはまったく異なるものである。手の指の爪と足の指の爪は離れているところにあるものだが、よく似ているものである。
つまらない風景なのに、忘れられないものがある。峠の茶屋で、甘酒を飲んでいる恋人たちの風景。冬だったのだろう。ふたりの息が白く煙っていた。井戸水で冷やした白玉を黒蜜で出す老婆の手。井戸水だったのだろうか。湧き出て
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