気化の誘惑/ただのみきや
 
計に撹拌された身体は煙へと変わる
ネズミのように壁紙を侵食して祭りを零しながら


瘠せた神々の祭壇に供えられた眼差しから
白い滓となって降り注ぐ記憶の粉末
眼孔の暗渠から這いあがる肺魚に刺さる月
夜に花輪を編む少女の刺青をまさぐるもの
それは取り調べられる男の頬に擬態した蝶
星々の液状化した愛欲により難破したもの
輝く鍵盤の津波により全ての防備を一掃され
黄金虫の硬度で調合された催涙弾で穿たれたもの


記号の呪文の蠱惑な踊りで発芽した幼い不信が
天を映した水たまりの静謐を正義の行進で濁す頃
猫背の占い師の張りぼての下着の中にまで
淡水人魚たちの憂鬱な自死のオノ
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