気化の誘惑/ただのみきや
 
オノマトペが忍び込む
自重で崩壊する思想 投身と開花の非関連性
一切の不寛容がオニキスの入れ歯で梳いたもの
小気味よく噛み砕かれた現象と幻想のコラージュ
有袋類のミルクで肥える貴族的悲哀の羽ペンよ


有刺鉄線に覆われた母子像の前で舌を早贄にし
脚を開いた古代と性交せよ
風の蛇が脱皮するように
時を横滑りする凧が首に絡まって
案山子の死は生と同一の
蘇る緑の中で朽ちて行く微笑みではなかったか
美しく傾斜する血の中で目覚めた鳥よ
言葉を啄んでわたしをすっかり白紙にしろ






パン

パンが焼けるまで
空白が息づいていた
変形しながら漂う風船のように
取りとめもなく
だが決して交じり合うことはなく
パンが焼けると光が射した
皿の上の霊魂のように
誰かを煙に巻く瞬間の
無垢な殺意の煌めきを待つ
雲の顔を感じながら


                  《2021年3月21日》







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