アメジスト/やまうちあつし
 
だけの財産をつぎ込んだ
 積み上げた仕事も
 名誉も信用も
 何もかもなげうった
 ついには自分の国籍も
 名前も譲り渡して
 やっとのことで手に入れたのだ
 その石を手にする代わりに
 私は何者でもなくなった
 それでよかった
 それがよかった
 その石の中で降り続く
 雨を見ているだけで
 私は何者でもよくなってしまった」

男は紅茶を一口飲んだ
「君にあげよう」

娘はその石に
たまらなく魅了されながら
同時にそんな大事な物を
もらえないとも思っていた

だってあなたが
何もかもかなぐり捨てて
やっと手にしたものでしょう
私たち
血がつな
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