ぬ/若原光彦
ういうものだ。
もちろん個別によるところはある。「あ」や「い」はその存在感たるや著しい。タ行の連中もサ行の連中も、その仕事量は尋常でない。またハ行に一目置かれるのももっともなことだ。彼らにはそれだけの華と、個性と、なによりニーズがある。「ぬ」にはない。
貴方がたが、たかが「ぬ」と思う、それは勝手だ。お前なぞいなくても、ウェヌスはビーナスとして通用するし、むしろお前がいるからボツリヌス菌もあるのだと、そう思うならそれも勝手だ。私にしてみれば、かような時期はとうに昔だ。幾ら蔑もうと自棄を起こそうと、私が「ぬ」である事実が変わるわけではない。
私の仕事は大半が否定の末端である。ならぬ。たりぬ
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