その井戸/為平 澪
う、手を合わせて懇願した。
はじめは私だけ井戸を持っていることが気持悪いと言
っていたくせに、みんなにはため池がないと生きては
いけないらしい。私は井戸から〈 〉を取り出して村
人の一人一人に、分け与えた。〈 〉は、井戸に尽きる
ことなくあるように思えた。〈 〉がある限り、私はと
りあえず、ため池の身代わり程度に、村に居られる理
由もできていた。ところが、私の井戸に飛び込む自殺
者がいるという噂が出回り始める。それからは噂だけ
がどんどん口汚い罵りをあげて飛び込んで行き井戸の
底を汚していく。村人は、笑顔で残念そうな声をあげ
て、私の井戸の〈 〉は、汚れすぎて用無しだという。
[次のページ]
戻る 編 削 Point(3)