その井戸/為平 澪
う。
そして、「これ以上自殺者を出さないために」などと、
煽り文句のビラで、井戸の〈 〉を、ますます、埋め
立てていった。数日後、役所から私の井戸の入り口を
完全封鎖するための赤銅の厚い鉄板と杭が届けられる。
私は、真っ黒な井戸の底にある〈 〉に向かって、何
かを呟きながら、そのまま、飛び込んだ。
※
夜、私のいなくなった仏間に名前のない人たちが連なって心経
を唱えている。黒い仏壇には出来立ての小さな私の位牌があっ
て、白い影の人たちの声が終わると、庭の古井戸に名のある人
が、ぽちゃり、と何かを沈めては含み笑いを残して去っていく。
戻る 編 削 Point(3)