灰の肖像/ハァモニィベル
味が見出される迄、執念深く
苦しめるものである。或る日の午後、私は町を歩きながら、ふと
「鉄筋コンクリート」といふ言葉を口に浮べた。》
いつも発端は、ささいな事だ。
《何故にそんな言葉が、私の心に浮んだのか、まるで理由がわからな
かつた。だがその言葉の意味の中に、何か常識の理解し得ない、
或る幽幻な哲理の謎が、神秘に隠されてゐるやうに思はれた。》
ささいな言葉に全人生をかけるなんて最初は思ってなどいなかった。
《それは夢の中の記憶のやうに、意識の背後にかくされて居り、縹渺(ひょうびょう)と
して捉へがたく、そのくせすぐ目の前にも、捉へ
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