【プレ批評対象作品】あほん『釣り人』 について/田代深子
るところとなってしまう。力みを伝えてはならない。
しかもこの詩を読むと、釣りする人は、おのずから水の中にいるようでもある(生ぬるい缶ビールと/おなじ水位になったような)。水の中というよりはちょうど水面の上と下に身をわたしている、つまり〈浮き〉のように。凧揚げする人が実は自ら宙に浮いているのと同様、釣りする人は水面に浮いて、抑え静まり魚を待っている。
もちろん欲はある。この欲は、何かが針にかかり薄い酩酊から突如として水面下に引き込まれたときには、瞬間なりと脅えかえるのではないか。先を予測するものではない、わずかな期待を押しやるように諦めようとする隠った欲であり、しかもその抑制をも楽しみとして
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