【プレ批評対象作品】あほん『釣り人』 について/田代深子
 

テトラポットの中の、もうひとつの潮が
さいげつの砂をくみだし
女の髪はのびていった
腐りながら、百年成長した白さ
きれぎれと、のびおちる
雲よ


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 開けてびっくりである。たんに1連目と2連目を、それぞれ腰据えて読めるというだけのことなのだが、ずいぶん味わいが深くなったものだ。いささか強引に、とりあえずこれで読みなおしてみる。

 1連目。

  浮きのまわりだけ
  しんとして
  欲がある

釣りを能くしない者が見る釣り人の静まりは、むろん期待を押さえ込む力の働きによる。期待が騒げば水面はすぐにも反応し、魚たちの知ると
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