チューしてあげる/島中 充
 
いない教室を振り返りながら、
「ケイコな、大阪市内の学校に行くねん。五年生楽しかったわ。この間、れき岩に平手打ちで、なぐられてん。痛かったけど、言い付けてやると言ったら、隣の席で、れき岩、泣いとんねん、涙落として、机の涙、指でこすって、慌てて拭いとんねん。可哀そうになったから、言い付けるのやめたんや」そばにいるぼくに、わざと聞こえるように、ケイコはオンナ委員長に話した。横目にぼくを見てニヤッと笑って、それからぼくの方に振り向いて、
「中村くん、さようなら」と言った。くん付けでぼくの名前を呼んだ。
「さようなら」ぼくは、ケイコに聞こえる声で答えた。そして、ケイコの前を急いで通りすぎながら、

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