チューしてあげる/島中 充
さな声で
「きのうはごめん」とケイコに、ぼくはあやまった。聞こえただろうかと思いながら、背を向け、柿を両手に包んで、早足にその場をたち去ろうとした。逃げようとするぼくの背中に、空一面、ケイコの大きな声が響き渡った。
「れき岩、さようなら」ケイコのいる屋敷の方を、驚いて振り返ると、松の木に座っているケイコのむこうに、夕日が満開であった。
3
五年生の修了式の当日、ケイコと一番仲の良かった同じクラスのオンナの委員長と、ケイコは廊下で立ち話をしていた。別れのことばと五年間の思い出を楽しそうにふたりで話していた。ケイコは近くにぼくがいるのに気付くと、五年三組のもう誰もいな
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