チューしてあげる/島中 充
 
やろうと思ったのだろう。ケイコがぼくを許しているはずはないのに。ケイコはなぜ復讐をしないのだろう。ぼくはあだ名をつけられ、仕返しをしよう、いつかは、ケイコをたたいてやろうとねらっていたのに。
うつむいて地面を見ながら歩いていると、
「おい、れき岩」頭上からのケイコの声が突然聞こえた。ぼくはびっくりして、塀の上を振り仰いだ。いつもの松の木の上にケイコは腰を掛けていた。
「おい、れき岩、これあげるわ」
塀越しにケイコはボールを手渡すように柿をひとつ放り投げた。ぼくは両の手でそれを受け取った。
「ありがとう」と聞えないほどの小さな声で礼を言った。ペコリと頭を下げた。そして聞こえないほどの小さな
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