夜行ヘリ/やけのはら/茶殻
 
情とは違う情が炙り出される、
彼女の整った歯並びからこぼれる甘い嬌声は
ヘッドフォンの至近距離で囁く、
応じて、履き古しのボクサーパンツは雄の臭気と湿度を篭らせる、
けれど父性と呼ぶべきものか、
何に対する憐憫だというのか、
水も差さずに萌芽したフェミニズムと汎愛は
陽炎のなか立ち尽くす戦災孤児の幻像をも連想させる、
思わぬ情念の発露、未知の自我にたじろぐ、
勢いのままに駆け上がる官能の螺旋は唐突に拠り所を失う、
瞬間的な不能と、響応する全能の幻想、
仮初めの悲劇がそこに芽生え、
虚実の血が滔滔と混ざり合う、
それはまさに生活の痕跡だ
私の不在を示す空間のヴィジョンだ
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