『薔薇巡礼』/川村 透
黒く白蛇のように
香気にむせかえる緑の茨たちとまぐわいながら、頂きを目指し、たゆたうのだ。
登る。
僕も薔薇の幼生体だったに違いない
登る。
茨の道行は冷たくて仔馬のように呼気は荒く凍えるように
登る。
まだ、僕を拒んでいる。
登る。
零下45度の薔薇を想う。
登る。
粉々になれ。
登る。
僕は泣いていた。
登れ。
そして、
そしてとうとう、
僕の心臓は硝子の薄い肋骨を割り砕きぐるりと裏がえって、
肉の薔薇となって咲きはじめた。
じくじくと筋繊維、弁膜のひとひらひとひらが
肉厚の花弁と化して乳を押し開きひくひくと震え蜜もたわわに
薔薇り、と花汁がしたた
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