空白の壁の前に立ち、ただひとつを独白するために/北街かな
知り尽くされた知らぬもののない形容
さらには端から限界までを舐めつくす徹底した修飾
終わりに目と手とが覚えているあらゆる物体の形状と存在性
そのもののもつおそらくの名前ひとつ
ひとつひとつをさんざんに書き込んで
読み込み記憶を繰り返して
重ね ずらし また重ねて裏返し 重ねて
無限回の試行をあらゆる手になる入出力で繰り返させたあとに
光の軌跡を空に描き
諸分岐と加算反復とで導き出された言葉の豪雨のなかで
独白する言葉を選ぶために
空まで達した無言の壁を前にして立ち 言葉を
さあ 選び続けた言葉を慎重につかみとろうとしたのだ
それは意識が生まれる遥か前から音の速度でやってき
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