左右非対称/こうだたけみ
やくおりてらっしゃいな」と繰り返していたが、わざわざ二階まで呼びには来なかった。来るはずがなかった。
しばらくして闇に目が慣れると、物の形が見えてきた。電気の傘の下で何かが動いている。あたしの右手だった。右手は廊下の明かりが当たるところまで行くと、あたしにその掌を開いて見せた。真っ黒だ。
あの子がいる。振り回されてもしがみついて、あたしの手にもあの子はいるのだ。同じ顔と声とで、じっと蹲っているのだ。あたしは、もう怒っていないことに気づく。「さきにたべちゃうわよ、しらないわよ」と言う姉さんの声が、とても遠くに聞こえた。すると、あたしの左手までも外れて床の上を転がった。そして右手にぶつかって、
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