黒犬/opus
 

しかし、
夜が来ても一向に
女は現れない
犬は一睡もせず
小屋を見つめていたが
女は出て来てなどいない

犬は体中の細胞が湧き立つのを
感じた
爪は鋭く
牙は剥き出され
月の光に反射した

犬は駆け出し
木板へと飛びかかった
木板は腐っていたため
力無く吹き飛び
犬の侵入を容易く受け入れた

家は暗闇に包まれていた
その一角に
仄かに光る蝋燭があり
傍で女が微笑していた

犬は飛びかかった
女の首筋に牙をのめり込ませた
口内に淡く広がる極上の瞬き
味を認知するのではなく
直接頭に訴えかけられ
犬は最早意識を保てず
本能のまま、
女を喰
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