海を渡る狼/竹森
 
が溢れ出してきて止まらなくなった。
だけど あの女は もう居ない。

嗚呼 もう死のう
その為の  海だ

そう思いつつ、
涙の軌跡をなぞっていくと
僕の指先が、不意に、
荒れ狂う海の様に
荒廃した僕の顔の
顎に   到達し、
ゴツゴツとした
狼の毛並みを思わせる
白銀の無精鬚に触れた

―――その瞬間、
海原に狼が現れた。
・・・ぼやけた姿で。

慌てて目をこすると
打ち上げられた瀕死の鯨が流している紅色の血の様に
より鮮やかに、ハッキリとした姿を確認する事ができた。
これはいったいどういうことだろう?
あの狼は 僕の幻想ではないのだろうか?

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