海を渡る狼/竹森
 

僕は女の傷口を舐めようと首を曲げた。
そして舌を押し当てた、つもりが、
僕の舌は感触も無しに傷口を突き抜けて
女の腕の中にのめり込んだ。
風船が破裂する様に
女の あの 女特有の 体臭が あふれ出し
僕は むせ返り、 むせ返っても 頑なに
その濃い体臭を吸い続けた。
甘い。
何が?
匂いが。
味が。
肉体が
唾液で
縮こまっていく
嗚呼
これは 綿菓子だ
いや違う  雲だ
皮膚を裏側から
舐める
溶ける
貝殻
じゃなくて
飴細工。
女が悲鳴を上げない。
女の表情が見えない。
嗚呼、狂っている。
誰か、助けてくれ。
いや、
誰も、助けない
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