海を渡る狼/竹森
 

と、舐めた。
そして、不意にこちらを向いた。
横顔ではなく、正面の顔を見たのは、
今回が初めてだった。
女は言う、

「じゃあ、私が昼間流した汗の中の塩は何処へ行ったの?」

「それなら結晶になって、君の肌の上に溜まっているよ」

「うそ。だって私の肌、しょっぱくなかったもの」

「そんな」

「ほら」

そう言って女は自分の右腕を僕に差し出す。
乾いた小麦色の肌に一点、
ジュクジュクとした 傷跡がある。
さっき女が、
チロリ、
と、舐めた部分だ。
(液体は染み込んで事物の色を深める、という事に気付く。)
それは魅惑的で 官能に満ち溢れていて

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