海を渡る狼/竹森
 
した言葉に女が反応する事はなくて、
これはただの、ただの二つの独り言だった。

それも当然だ。
なぜならその女は、
僕が積み上げた、
砂のお城、なのだから。

視界をぼやかす涙によってのみ、
その幻想は支え続けられていた。

自作自演。
全てが馬鹿馬鹿しかった。
ほら、やろうと思えば会話だって―――

「雨って、元は海水なのよね?あのしょっぱさは何処へ行ってしまったの?」

「しょっぱさというか、溶けた塩だけどね。
 それは、蒸発しないで、海の中に留まっているんだよ」

僕がそう言うと、
女は自分の右腕を口元にまで持っていき、
舌を出して、
チロリ、
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