海を渡る狼/竹森
 

僕は、泣きじゃくっていた。

すると、いつの間にか、
僕の隣に、一人の若い女がしゃがみこんでいた。

女は地平線を見つめていた。
無表情なその横顔は、儚げで美しかった。

女が口を開く、
「季節の境目って、あるのかしら?」
僕が答える、
「うーん。風は大気の急激な温度差によって生じるでしょ。
 だから、季節の境界線は風なんじゃないかな。それも、とっても強い風」
女が口を開く、
「ねぇ、私、雨が欲しいの」
僕が答える、
「それなら、目の前にある海に頼めばいいよ」

・・・嗚呼、狂っていた。

会話では無かった。
女が発した言葉に僕が答えて、
僕が発した
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