マリエロの海/オダ カズヒコ
 
と言うので
早朝からぼくらは見に行った
彼らは小さな漁船に乗り込み
かしぐ波間で
祖国に残していく家族や親類や友人たちと手を取り合い
熱く抱擁を交わし
涙を流している

カモノハシとぼくは
波打ち際のテトラポットの縁に腰を掛け
ポテトチップスをゆび先で摘みながら
ハンカチをギュッと握りしめ
そいつを見ていた

その日も
夕刻に近づき
マリエロの繁華街に立ついつもの娼婦たちが 
畑帰りの農夫のニンジンやジャガイモを握りしめ
「遊んでイカナイ?」などと耳元で甘く囁き巡る時間に

牛乳ベースのスープにレチェが入った鍋は
香ばしい薫りをさらにたて
グツグツと煮込
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