タンス/島中 充
きのう、母がへそくりを貯め、新しいタンスを買ってきた
周囲には撫でまわしたいような唐草模様が施してあった
団地六畳につめこまれた象を思わせた
私は古いタンスから、自分の物を新しいタンスへ運びながら
思わず、言ってしまった「タンスばあさん」
すると、母はひょいと扉を開け
タンスに入ってしまった
戦争から半世紀
あなたから、ばあさんと呼ばれるための歳月だったろうか
海ゆかば 水漬く屍、
あたしは神宮外苑に恋人を見送った
鬼とかタンスと違って
あのひとは、あたしをゆりの花にたとえてくれた
あなたは厚かましいと言っただろう
あたしも兵器工場に行かされた
友達が焼夷弾に燃
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