ナニカ/草野大悟2
、そこに定年前の課長が神経質そうな表情を浮かべて立っていた。
「野津君、勤務中の私用電話は厳禁だよ、いいね、分かったね」
「あ、はい、すみません」
聞いてたのかよ、来年定年の分際で何威張ってんだ、内心そう思っても素直なふりをしてとりあえず謝る。市役所に入って一年で、野津はここでの処世術を身に付けていた。
六時きっかりに理沙は電話してきた。八時半に市役所近くの居酒屋『源』で会う約束をして電話を切った。八時半を一〇分ほど過ぎて『源』に着くと、お連れ様がお待ちです、と奥の個室に案内された。個室の引き戸を開けるとそこに理沙がいた。
理沙は、腰まであった髪をばっさり切ってショートカットにして
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