小屋/草野大悟2
 
丈夫だな、俺も安心して辞められる」田中さんは、そういい残して小屋を去っていった。
 僕は、田中さんの年齢や家族や私生活などについてはまったく知らなかったし、興味もなかった。田中さんが、その時六十五歳だったことや、四十歳で奥さんと離婚して娘二人は奥さんが引き取り、それ以後一人暮らしをしていたことなどを、後になって、モギリのおばさんから聞いた。
三十歳になったばかりの春、僕は十二年間お世話になった百合ヶ丘ショー劇場を辞め、
西船橋のホワイトメトロというストリップ劇場に移った。客として、たまたま、百合ヶ丘ショー劇場に来たホワイトメトロの経営者が、ダンサーの踊りにマッチした照明と音楽がとても気に
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