小屋/草野大悟2
」を出て、すぐ前にある体育館の方に歩いていった。僕は、そのまま固まって、ぼんやりとシロを眺めていた。ついさっきまで、佐藤陽子がここにいて、彼女と喋っていたことが幻のように思われた。
その後も、月に二、三度くらい、彼女はウサギ小屋に来た。人参やセロリを学生カバンにしのばせて。そしてそれは、僕たちが中学校を卒業するまで続くと信じていた。
彼女のお父さんが農水省という所で働いていること、お母さんは専業主婦で油絵を描いていること、妹が一人いることが「ウサギ小屋」で彼女と話すうちに分かってきた。
中学三年の一学期終業式の日、彼女は
「中村くん、今度、八月九日に県総合体育館で、新体操の大会
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