境/永乃ゆち
 

あんたの亭主もしばらくは悲しいじゃろうけど、その内忘れる。
人間は忘れられるからね。都合のいい頭をしちょるよ。
それでも、ホンマにええんかね?』

私は大きく首を縦に振った。

『しょうがないねぇ。初回限定Uターン特約施行するよ。
ただし、二度目はないよ?もし、もう一度あんたがここに来たら
二度とはあっちには帰れんよ?いいね?』

おばあさんはそう言うと、私の体を強く押した。
あれほど頑固だったドアがするりと開き
私は眩しい光の中に飛び込んだ。



目が覚めると、夫の顔が間近にあった。
夫の目からこぼれる涙で、私の頬も濡れていた。

私は白い壁の病室に
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