境/永乃ゆち
 
ガラス張りの部屋だった。

正面にドアが一つ。これもガラス張りだった。

よくよく見ると、そのガラスの向こうは
夕暮れ色でもなく蛍光灯の光る明るい病室だった。

ベッドには私が寝ていて
私の夫が泣きながら何かを叫んでいた。
声は聞くことはできなかった。

わたしは思わずドアに駆け寄って力いっぱいドアを開けようとした。
しかしドアはピクリとも動かなかった。
何度も何度も体当たりしたが、結果は同じだった。

『タカちゃん!!タカちゃん!!
ウチはここじゃよ!!タカちゃん!!ここにおるんよ!!』

喉が張り裂けそうになるほどの大声で
私は叫んでいた。しかしそれは声に
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