泣き虫フーガ/村田 活彦
 
もアンテナも火柱とともに崩れ落ち、
逃げ惑うひとたちの上に落ちてきた。
病院にも映画館にも、
工場と消防署にも爆弾が炸裂した。

火の手から逃れたひとたちは、
フーガを閉じ込めた地下室に駆け込んだ。
しかしそこに彼の姿はなく、
タオルを縫い合わせた大きなマントが
落ちているだけだった。
耳をすますと、
地上の爆音にまぎれて確かに泣き声が聞こえた。
フーガが町をさまよっているのだ、
とみんなはささやきあった。

やがて人びとが地下室から出て来たとき、
火はすっかり収まっていた。
焼け野原のあちこちに水たまりができていた。
しかし、どこを捜しても
フーガはみつから
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