泣き虫フーガ/村田 活彦
 
からなかった。


まもなく戦争は終わった。
人々は瓦礫をかたづけ、
仮小屋で生活をはじめた。
ラジオから新しい音楽が流れた。

平らになった町で、
いつからか夕暮れになると
遠くから鳥の声が聞こえるようになった。
それはまるで
ひとが泣いているように聞こえるのだった。
フーガが自分たちのかわりに
泣いてくれているのだと、噂するひともいた。
つらい時代を思い出すからと、
耳をふさぐひともいた。


あの日、山で迷子になった子どもは、
すっかり青年になった。
今はパルプ工場で見習いとして働いている。
一日の仕事を終えるとひとりで丘に登る。
彼の肩には、タオルを縫い合わせた大きなマントがある。
小さな町を見おろす彼の耳に、
あの夜聞いたフーガの泣き声にそっくりな
鳥の声が聞こえてくる。

西日に照らされながら、
ゆっくりと目をとじ、
その声を聞いている。








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