泣き虫フーガ/村田 活彦
続けた。
その声は、
ほら穴でうずくまっていた男の子の耳にも届いた。
やがて日が昇り、
泣き声を頼りにほら穴を出た子どもは
無事に保護された。
消防士に抱かれてその子が山をおりたとき、
フーガはまだしゃくりあげていた。
泣きはらした目に青空が映ってまるで海のようだ、
と男の子は思った。
フーガが二十歳になるころ、戦争が始まった。
かつてのクラスメイトたちは
船に乗って戦場に行ったが、
フーガは兵役検査に合格しなかった。
働きにも行かず、あいかわらず泣いてばかりいた。
「こんなご時世に泣くなんて」と
町のひとたちは次第に陰口をたたくようになった。
戦争が
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