泣き虫フーガ/村田 活彦
 
フーガは、ますます泣き虫だった。
クラスメイトたちと映画館に行った時は大騒ぎになった。
あふれた涙が客席にあふれかえり、
映写室のドアまで迫った。
映写技師はあわててフィルムを抱えて逃げ出した。
劇場主はわめき散らした。
危うくおぼれかけた仲間たちは、
世紀の脱出劇をおもしろおかしく語り合った。

ある夏の日、
幼い男の子が山で迷子になるという事件が起きた。
町の大人たちが総出で探したが
見つからないまま夜になった。
暗闇でひとり脅えているだろう子どものことを考えると、
フーガは泣けて泣けて仕方がなかった。
泣きながらふもとの一本杉に登り、
枝の上でひと晩中泣き続け
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