かなしめ十円/
 
室の薬品くささなどではなく、この「つめたい」によってのみ蘇るのだ。しかし葬式に参列するつもりはなかったし、なにより遺骸を見ていない以上どうせぼくの胸中には「おいしい」「きもちいい」「もったいない」くらいしか渦巻いていなかったのだから、それも大した感慨にはならないだろう。できうることなら、とぼくは飲み干す。コップが空になる。余った雫に埃が付いている。埃ではない。小人が浮いている。
「おかねかえして」
 ぼくはゆっくりティッシュを取った。



 球体の
 球体の
 球体の

 電灯の下で睦みあう
 窓の外は長い花火だった
 あなたは十円玉を舌に乗せている
 あなたが言う「
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