かなしめ十円/鯉
る。「つめたい」がそのまま喉を通っていった。部屋には返していない無数のティッシュやコンビニ弁当の殻が入ったゴミ袋、本の催促状、あと「鈴木3000円」と書かれた各借金の契約書(ごくこじんまりとした)がそれらの横に平積みになっている。あいつからも1000円借りていた。ぼくの部屋は負債で構成されている。そして唐突に入り込んだ風ですぐにぼくの部屋は破綻した。毛布の端をぼくは強く握っている。
寒い。喉を「つめたい」が通るたびに、このいくつかのうちに彼女が紛れ込むということがこれから起きるのだろうなあとぼくは思った。たとえば記憶の持ちうるあの奇妙なまでの再生性だ。これから彼女は決してきれいなドレスや病室の
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