亡き従兄弟に捧げる/イナエ
 
ども心は許せなかった
うっかり行き先を話して敵軍に待ち伏せされたこともあった
重傷で意識を失っていく戦友に 末期の水を含ませながら
「明日は我が身」と何度思ったことだろう

復員してからも 生命の危機は遠のいたものの 心安まるときはなかった
駅前広場で弁当箱を膝にのせ 蓋に着いた飯粒を拾っていた
ときのこと 
にこにこと近づいてきた子どもが「いただきまーす」と言う
や否や弁当をかすめとり仲間と逃げ去った
ではないか

あの純朴そうな顔の少年にだまされた自分が忌々しかった
村落に探しに入ってもおそらく知らないと言われるだろう 
たとえそうだとしても 数多の戦線で末期の水を
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