岬の家/佐東
は抱きかかえて浜へ降りる 膝まで海に浸かるところで ゆっくり両腕をはなして ぼくを波に乗せる
ぼくの身体は ゆったりとした波にうつ伏せにされたり仰向けにされたりしながら だんだん浜辺から遠のいてゆく
テラスで姉さんが 乾かない袖口を ひらひらさせながら はなうたをうたっている
とうとう 食われちまうのかい!
母さんが怒ったように言い放つ
膝まで海に浸かった父さんが ゴマ粒のようにちいさくなったところで 声にならない声を上げて 起き上がると
辺りは まだ
青白い月のひかりに
支配されている
ぼくは 心臓の上に
手のひらを あてて
夏の始まりの 波の呼吸を
確かめる
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