岬の家/佐東
*
翌朝 誰よりも早く眼を覚ます
牛乳配達の人よりも
父さんよりも 早くに
古くてちいさな だけど確かな重量のある鍵を握りしめて
浜へ降りる
いきものの気配は しない
風は まだない
波打ち際を 防砂林の見える方角へ
歩いてゆく
ちいさな波の 白い子どもたちが
しゃらしゃらと 声を上げながら
くるぶしにあたり 消えてゆく
消えてゆくために うまれてくる
太古の海より受け継がれてきた
波の営み
しばらく歩くと 波打ち際に
ちいさな鍵穴がある
海の鍵を 持つ者にしか
見えない鍵穴
鍵をさし込む
夏を告げる波が
沖合いから ざあーーと
やってくる音が聴こえてくる
姉さんの はなうたを乗せて
ぼくは
ふるえる右腕を
左手でおさえながら
ゆっくり 鍵を回す
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