岬の家/佐東
そいつは ぼくの部屋へ 寝ているぼくの身体中を覆い尽くしてゆく 蟲という蟲の 無数の触覚が 脚が ざわざわと這い回り 身体中の穴という穴から なだれをなして侵入してくる 内側から ぼくを食らうのだ
血管という血管 臓物 筋肉組織 神経細胞までも びちゃびちゃと音を立てながら 食らい尽くす 遠のく意識の中で 波のない海の底のうたを聴いている
こんな話を聴いたことがある
この辺りの漁師の言い伝えで 海に食われた者はフナムシとなり 風のない 夏の始まりの禁漁日の夜に 海に出た者を波の底に引くのだ という
祖母が消えたのも そんな夜だった
すでに身体の動かなくなっているぼくを 父さんは抱
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